海外における火葬事情
日本の火葬率はほぼ100%です。
生身のまま埋葬する土葬が禁止されているわけではありませんが、墓地霊園・お寺などにお墓を持とうとすれば、火葬しなければ受け入れてもらえませんので、事実上義務と言ってもいいでしょう。
対して海外(欧米諸国)ではまだまだ土葬を選択する風習が多く残っています。
映画などでも棺桶に入れられた葬儀の様子が良く描かれています。
たとえば1970年代のイギリスでは火葬率はわずか12%でしたが、21世紀に入ってから現在までの火葬率は約70%で安定して推移しています。(BBC)
アメリカでの火葬率の平均はもっと少なく、21世紀初頭でも20%台、2015年になって初めて火葬の割合が土葬の割合と同じ50%台になりました。(アメリカ葬儀協会)
※アメリカは州によって大きく異なり、ミシシッピ州での火葬率はいまだに10%台です。
火葬が増加した理由
欧米諸国において火葬が一般化してきた理由は大きく3つあります。
ひとつは宗教上の理由
ひとつは費用の問題
ひとつは埋葬方法の多様化です。
宗教上の理由
過去、キリスト教(主にカトリック教会)では火葬が禁止されていました。
なぜなら最後の審判において死者は復活するとされているためです。
火葬してしまっては肉体がなくなってしまい、復活することが叶いません。
ところが1965年、カトリック教会が火葬は教義に反しないと許容したため流れが変わりました。
カトリックは世界に12億人ともいわれる信者を有するので、その影響力は絶大です。
費用の問題
そもそもカトリック教会が火葬を許容した背景のひとつに、埋葬(土葬)の費用の問題がありました。
土葬をする場合、亡くなった人をそのまま埋めるわけではなく、防腐処理(エンバーミング)を施す必要があります。
日本でエンバーミングというとエンゼルメイク(死に化粧)を連想しますが、実際は血液・体液・体内の残置物を強制的に排出させて防腐剤を注入する処理を言い、遺体の劣化・腐敗を遅らせることで1日でも長く生前の姿を保たせます。
日本でエンバーミングを行う場合、医師免許などの資格を持った人のみが行うことができ、その費用は20万円程度必要です。
海外でのエンバーミングも、遺族の経済的な負担が大きいのです。
そして墓地の土地も購入しなければならない場合があります。
日本の墓地は永年とは言っても借りている状態ですが、公営を除く海外の墓地の一部は、土地を買う必要があり、土地とは別に墓石や棺を用意しなければなりません。
土葬による葬儀だけで1万ドルを超えることも珍しくないなか、火葬を選択することでその10分の1、500ドル~3000ドル(約5万円~30万円)で葬儀を行うことができるのは大きな魅力になったはずです。
埋葬方法の多様化
火葬して遺骨を灰状にすることで可能になる方法は散骨です。
欧米諸国においても散骨は葬送の方法として急速に増えてきています。
欧米では西日本の火葬事情と似ていて、遺骨(遺灰)の一部を遺族が受け取り、残りは火葬場で処分する方式が多くなっています。
そしてそのまま、火葬場の庭や自宅の庭、教会や墓地の敷地に遺骨を撒きます。
これを可能にしているのは火葬の燃焼温度で、日本の火葬ではお骨拾いのためにあえて火葬温度を低く設定し、遺骨の形が残るようにしています。
他方、欧米ではそのような風習がありませんので、超高温で火葬を行うことで灰状にし、散骨が容易にできるようになっています。
海外の散骨事情
火葬が一般化してきた欧米諸国において、当然のように増えてきた散骨という葬送ですが、法的な事情だけに的を絞ると日本と変わらず、国としての規制はなく州や自治体でのルールに留まっています。
日本においては法律で定められていることは墓地埋葬法によるものだけで、その中に散骨の文言はなく、遺骨を埋めることが違法行為に該当します。
対して海外では遺骨を埋めてもいい場合が多いので、しばしば散骨と自然葬は分けて考えられます。
アメリカ
アメリカも合衆国としての法令、連邦法で散骨を規制するものは存在しませんが、各州が定める法令、州法などで散骨についての指針を示しています。
ただほとんどの州は散骨を制限するものではなく「他人の土地に撒いてはならない」程度のルールが多く、管轄する役所に対して許可を求めず報告もしないようにしていれば、常識の範囲で勝手に散骨してOKというのが実態です。
海洋散骨は、海岸または海軍の指定する海域から3海里離れている必要があったり、散骨後の報告義務があったりするため、公園(東京23区よりも広いような)への散骨が人気があります。
申請をすればグランドキャニオンでの散骨も可能です。
カナダ
2016年、ケベック州(カナダ第2の都市)において散骨に関する法律が作られました。
内容は以下の2点です。
・人の尊厳を傷付ける場所以外での散骨の自由
・散骨場所の報告義務
もともと火葬を禁止していたカトリック信者がもっとも多いカナダにおいて、この法律は非常にインパクトの大きいものでした。
首都オタワのあるオンタリオ州では、公有地(エリザベス女王の土地)や州立公園あれば許可を必要とせずに散骨ができるとされていて、公園には散骨する人向けに注意看板が設置されています。
内容は「水の中に撒かないでください」「木を切らないでください」「墓標を立てないでください」といった常識的な内容になっています。
イギリス
イギリス(イングランド・スコットランド)には散骨に関する法律はありませんが、散骨という行為に対しては寛容的です。
しかし、公有地(同上)や公園での散骨は基本的にはできません。
公営・民間の墓地や教会、火葬場に散骨することになります。
墓地の敷地内に散骨場を併設していることも多く、豊富な選択肢から選ぶことができます。
ちなみに火葬場というと日本の火葬場を想像してしまいますが、そこはイギリスです。
すすんで散骨したくなるようなうらやましい環境が整っています。
フランス
フランスでは都市部の陸地への散骨はほぼできません。
セーヌ川への散骨も禁止されています。
イギリスと同様、火葬場に散骨するスペースが設けられており、そのほとんどは無料で散骨することが可能になっています。
海への散骨は許容されていて、遺灰だけを撒く場合は海岸から300メートル以上、水溶性の壺などの容器に入れて海に沈める場合は海岸から6キロ以上離れることが求められています。
オーストラリア・ニュージーランド
やはり国として散骨を規制する法令は整備されていませんが、一部の自治体において規制がなされています。
オーストラリア、ニュージーランドともに火葬の習慣のない先住民(アボリジニ・マオリ)との共存を図る目的もあり、公共・民間の散骨場が整備され、散骨しやすい環境が整っています。
クイーンズランド(ゴールドコースト)では、先住民や海の仕事に深く従事したものであれば火葬なしで海に葬ることができます。
そのため散骨については許可不要で行うことが出来ますが、マナーとして海岸または保護区域から3海里離れることを求めています。
一方、メルボルンでは散骨を全面的に禁止しており、州によって対応が分かれています。
北欧
ノルウェーでは個人の所有でない山や海への散骨を認めていて、手続きも決まっています。
散骨するためには、故人が生前に散骨を希望したことを証明する文書(簡易的なものでも可能)を持って散骨希望場所の知事に申請することで許可されます。
スウェーデンでの散骨事情も同じです。
管轄する郡知事の許可を受けて海や山、墓地などへの散骨が許可されます。
海洋散骨
欧米・オセアニアの散骨事情については日本と変わらず、海洋と国有地(公有地)であればおおむね許容されています。
ただ散骨の考え方は国によって異なり、自然環境を優先する場合・宗教を重視する場合・故人の希望を尊重する場合など、その国ごとの特色が出ています。
なお、火葬を許容したカトリックですが、散骨に関しては方法・場所を問わず全面的に禁止しています。
海洋散骨であれば、日本人である私たちも利用することが出来ますので、海外での散骨を考えている方は是非参考にしてみて下さい。